インタビュー & 特集
SPECIAL! 『エリザベート』トート対談 城田優さん×井上芳雄さん 後編
帝劇公演の大盛況で幕を下ろし、いよいよ全国ツアー公演に入る大ヒットミュージカル『エリザベート』。トートを演じる城田優さん&井上芳雄さんの対談、今回から初参加した、ルキーニ成河さんのインタビューを、連続掲載いたします。(撮影/熊谷仁男、舞台写真/東宝演劇部)
INTERVIEW & SPECIAL 2016 8/5 UPDATE
(前編からつづく)
——おふたりが感じるリーヴァイさんの楽曲の魅力を、改めて教えていただけますか?
城田 僕は“ロックミュージカル”なところだと思います。もちろん“ザ・ミュージカル”というクラシカルな楽曲で、オーケストレーションもすごくキレイです。でもその中で、例えば『最後のダンス』のように「ッダダン、ダッ、ダン!」みたいなフレーズが出てくると、聴いている方も「うわっ!」って高揚すると思いますし、こちらもテンションが上がってくるんですよね。物語の中で、音楽によって感情の流れを自由自在にもっていく。もちろんどのミュージカルもそのように作られていますけど、中でも『エリザベート』は本当に繊細で美しくて、時に優しく柔らかく、と思いきやいきなり強引に、と「死ぬことと生きること」の両極端さ、裏表をよく表していると思います。聴くことだけに徹するなら至福の時ですし、大好きですよ。でも、聴くと一気に「自分が演じる」というマインドになるので、心拍数が上がって緊張してしまいますけど。最初のストリングスの「ティ~リ~リ~」でもう、「うわぁっ!」って。
井上 いろいろな怖さが(笑)。
城田 はい(笑)。
井上 そうですね、やはりミュージカルの音楽としてすごく優れているし、ひとつの感情なり場面のシチュエーションなりを何倍にも膨らませるんですよね。激しさにおいても優しさにおいても、「この場面で歌うならこういう曲だろうな」という想像を遥かに超えてくる。リーヴァイさんはもちろん今も円熟した作品を生み出し続けていらっしゃいますけど、特に『エリザベート』『モーツァルト!』の頃のクンツェ&リーヴァイコンビ作品は、まさに「黄金期」と言うか、そこにしかない豊かな音楽ですね。その作品をやらせていただけることが、本当にありがたいですよ。
——トートとして歌っていて特に難しさを感じたり、逆に歌いやすい曲、そしてほかの方の曲でお好きなものは?
城田 僕が歌いやすいフレーズは、(ルドルフの葬儀の後、エリザベートへの)「ま~だ~私を、愛してはいない~♪」
井上 俺、そこは歌いにくいんだよ。
城田 本当ですか!?
井上 初演(2000年)の時に内野聖陽さんがトートを演じてらして、(ルドルフ役として)棺に入っている俺の上で歌ってたんだけど、内野さんはそこの音程がとりにくそうで、苦労してらっしゃるのを3ヶ月間ずっと棺の中で聞いていたんですよ。そうしたら、自分もそこで妙に緊張してしまうようになってしまって(笑)。
城田 なるほど。あと、これも短いフレーズですけど、少年ルドルフに歌うところも結構好きですね。「マ~マ~に~は~聞こえない♪」
井上 そこは俺も、ストレスないな。
城田 はい、楽しく歌えています。あと「エリ〜ザベート、泣かない〜で♪」とか。
井上 短いフレーズばっかりだね(笑)。
城田 ほかの人の曲で言うと『私だけに』は、エリザベートのお二方が今日はどんなふうに思いを爆発させるのか、いつも袖で見入ってしまいますね。あとは『ミルク』とかも好きです。
井上 自分がかかわる曲に関しては「好き」とか言えるものではないけど、トートがフランツ・ヨーゼフと対決する『悪夢』。
城田 確かに! あの曲は良いですよね!
井上 ふたりが相対しながら、「私のものだ」「俺のものだ」と必死に歌う。しかもこっち(トート)は死神だから強いし、フランツ・ヨーゼフはもうおじいちゃんになっている。そんな中でも気持ちの上では拮抗して歌い合う、まさに歌合戦なんですよね。すごく良いと思います。あと『最後のダンス』は、コンサートでこの1曲を単独で歌っても成立する。そんなナンバーは実はあまりないですし、歌いがいがありますね。
——『エリザベート』という作品はご自分にとってどんな存在でしょうか。
井上 僕は最初の作品が『エリザベート』だったので、それはすごくラッキーだったと思いますね。『エリザベート』でデビューしていなかったら、現在の僕のような形にはなっていなかった。それくらい人気、力のある作品だし、ルドルフもとても良い役です。でも去年トートを演じてみて「どうしてこの作品がここまで愛されるのか」と思うくらい、前以上に人気が強まっていると感じました。まるで“底無し沼”というか、麻薬のような魅力がある作品なんですね。これは(初演以来2006年までエリザベートを演じた)一路真輝さんもおっしゃっていたことですが、「『エリザベート』は特別な作品」。もちろん個々にお客様が非常に盛り上がる作品はありますけど、これだけ魅了され続けることはまずない。その恩恵はとても受けていますけど、それに甘えてはいけませんね。『エリザベート』の力を借りているだけで自分の力ではない、そう自分を戒めないとすぐに溺れてしまう。それくらい魅力的な作品です。
城田 僕が『エリザベート』に出て感じたのは、やはり“恐ろしい存在”だということですね。要は芳雄くんが話したことの反対側ですが、すごく美しくて魅力的で、音楽も物語も本当に良くできています。(オーストリア皇后・エリザベートの生涯という)ノンフィクションの中に“死=トート”という概念がひとつ入るだけでこんなに世界がファンタジックになること、装置、衣裳、メイク、宝塚歌劇団から受け継いだ神秘的な部分、すべておいて魔法のような作品だと思います。だからこそ、恐ろしい。初めて演じた24歳の時は今よりも責任感がなかったし、経験も実力もなかったけれど、勢いでできたところがありました。でもやっぱり、“魔法の核にならなくてはいけない”ことは自分が選んだ道とはいえ、きつかったですね。5年経ってもう一度やることになって、「この5年の間にこんな作品もやったし、こんな人たちとやってきたし、これだけ自分のなかでは成長できたと思っている。前は出せなかった音も余裕で出せている。いろいろなことを自分の糧として、きっとできるだろう」と思っていたんです。稽古場までは「お客様に残念な思いをさせることなくやりきれるだろう」と思っていましたが……そんなに甘いものではありませんでした。だからやはり「怖い作品だな」と。
——井上さんは公私ともに順調でいらっしゃいますが、博多公演もはじまりますし、そのほかへの意気込みを聞かせてください。
井上 のびのび過ごしたいですね。自分では意識していないけれど、博多で公演すると「リラックスしている」と言われるんですよ。今回はトートという役なので、あまりリラックスし過ぎても世界が違ってしまう(笑)。緊張感をどう保つのかが、逆に難しくなりそうですね。でも去年は東京だけ3ヶ月で、公演中はなかなか「みんなで飲みに行こう」とは。
城田 ならなかったですね。
井上 ほかの仕事もあってできなかったですし。(今回は)博多公演ぐらいから、みんなと交流が持てるんじゃないかと。
城田 ぜひ、行きましょう!
井上 その後も大阪、名古屋と公演が続きますし、そういう意味での楽しみもありますね。トートという役は“非日常”、神秘的な役。もちろん自分たちも人間なので実人生はありますけど、自分たちの日常が透けて見えてしまうのは……。お客様には劇場で夢を見ていただきたいし、その世界にひたっていただきたいですから、舞台上ではそこを感じさせないように切り替えていきたいですね。それは自分の腕次第ですが、周りの皆さんに協力していただきながら、『エリザベート』の世界でしっかりと自分の役割を果たしたいと思います。
城田 そうですね。僕もがんばっていきたいと思います。
●公演情報
『エリザベート』
2016年6月28日~7月26日 東京公演 帝国劇場 (公演終了)
2016年8月6日~9月4日 福岡公演 博多座
2016年9月11日~9月30日 大阪公演 梅田芸術劇場メインホール
2016年10月8日~23日 名古屋公演 中日劇場
Staff
脚本/歌詞 ミヒャエル・クンツェ
音楽/編曲 シルヴェスター・リーヴァイ
演出/訳詞 小池修一郎
出演 花總まり・蘭乃はな/城田 優・井上芳雄
/田代万里生・佐藤隆紀(LE VELVETS)東京公演のみ/古川雄大・京本大我(ジャニーズJr.)
/未来優希/涼風真世・香寿たつき/山崎育三郎・成河 ほか