インタビュー & 特集
SPECIAL! 『エリザベート』トート対談 城田優さん×井上芳雄さん 前編
帝劇公演の大盛況で幕を下ろし、いよいよ全国ツアー公演に入る大ヒットミュージカル『エリザベート』。トートを演じる城田優さん&井上芳雄さんの対談、今回から初参加した、ルキーニ成河さんのインタビューを、連続掲載いたします。。(撮影/熊谷仁男)
INTERVIEW & SPECIAL 2016 8/5 UPDATE
2015年にキャスト、舞台美術、衣裳を一新し、大きな反響を巻き起こしたミュージカル『エリザベート』。2016年は東京だけでなく、福岡・大阪・名古屋でも、美しく妖しい愛と死の世界がくり広げられます。この長期公演で黄泉の帝王・トートを演じているのは、これが3度目となる城田優さん、そして2015年に引き続き2度目となる井上芳雄さんのおふたりです。(文/文月カナ)
井上 僕は去年の『エリザベート』で初めてトートをやらせていただきましたが、「トートをもっともっと深めたい」と思っていたので、また演じられることが嬉しいですね。去年は東京(公演)だけでしたが、今年は4都市でできますし。トート役は「できる限り、やれたらいいな」と思っているんです。
城田 僕は正直に言って、怖くて泣きました(苦笑)。4都市を回る4ヶ月の間(役の)中に入るのは「自分がどこまでできるのか」という挑戦で、ありがたい機会ではありますが、やはり恐ろしい。僕にとっては、今後たぶんどんな役をやったとしても「トートが一番きつかった」と言える自信があるくらいです。こんなに難しい役はありません。
——トートという役は、どういう部分がそれほどに難しいのでしょうか?
城田 トートは、“死”という定義のない概念なんですよね。だからこそ自由にできることも事実ですが、自分が創っているトートという存在の細かい動作、声、すべてのことが気になってしまうんです。「これで良かったんだろうか?」「今のは人間っぽく見えてしまったんじゃないだろうか?」、声が少しでもひっくり返ったり、うまく歌えないと「今日のお客様に申し訳ない」という感じで、すぐ落ち込んでしまう。作品の力が壮大なので、楽しみにされている方たちもすごく多いですし、そういう意味でのプレッシャーに一度として打ち勝てませんでした。そこを「楽しい」と思えるところまで達していないほど、自分が未熟だということです。だから怖いんですよ。
井上 そうだね、人間ではないのでどうやっても良いとは思うけど、観ている方に「“死”だな」と思っていただかないといけない。皆さんそれぞれに“死”のイメージがあると思うので、それを物語の中で成立させなくてはいけないのは難しいですね。僕は去年、稽古中は本当に苦しんだけど、本番に入ってからは楽しかったんです。何をやっても良いし、極端に言えば自分が1やったら(観客は)10くらいに受け取ってくれる。今日こんな感じにやったらこういう反応が来て、また別にやったら別の反応が来て。そういうところがすごく楽しかったし、喜びでもありました。「おもしろい役だな」と思いましたよ。それはもちろん一面では怖くもありますけど、そんな役って他にあまりないんですよね。城田くんとは真逆の答えになりましたけど、稽古中も僕たちはある意味逆でしたね。
城田 そうなんですよね。僕は稽古中、すごく楽しかった。
井上 僕は「稽古が早く終わってしまえばいい」、むしろ「稽古はやらなくていい」くらいの気持ちだったから。
城田 (爆笑)! 去年の公演の2ヶ月目くらいに、袖から芳雄くんのトートを見たんです。久しぶりに見たら(稽古の時と)全然違っていて、「とんでもなく進化してる!」と思いました。稽古場で演じていたトート像とはまったく違うエネルギーが出ていて、「すごい!」と思いましたね。だから、今おっしゃったことも良くわかります。
——お互いのトートについて、感じることは?
城田 同じ歌を歌うし、同じような衣裳を着ているので、無意識に似てしまったり、取り入れてしまったりするところはあると思います。「真似をしたくない」ということではないけれど、そういう部分はなるべく少なくして、お互いのオリジナルな部分を多くしたいんです。だから、芳雄くんのトートはあまり見ないようにしています。見てしまうと、絶対耳や頭に残ってしまうから。そうしていても、自分で「芳雄くんみたいな歌い方になっているな」と思う時もあるくらいだし。(そういうことは)ありますよね?
井上 あるね。今回の稽古中、別の所で『最後のダンス』を歌う機会があったんです。自分なりに歌ったつもりだったけれど、それを聞いたファンの方が「城田くんのフェイクですよね」って(笑)。「今日は違う風に歌ってみよう」と思ったら、いつの間にか城田くんの歌い方になっていたみたい。
城田 そういうこと、絶対あります!
井上 きっと、どこかで無意識に「それ、良いな」って思っているんでしょうね。でも、それはそれで良いと思うんですよ。
城田 はい、お互いに「良い」と思う部分はミックスされて良いと思います。そういう意味では、ふたりのパターンを観ると共通点もあるし、違う所もある。その共通点は、演出上の共通点かもしれないし、お互いに影響し合ったのかもしれないし。そういう部分を見つけていただくのは、おもしろいと思います。
——お互いに役者として、人として、どう評価していますか?
井上 城田くんはこれまで話したことでもわかりますけど、とても正直な人。すごく大胆に自分が苦しんだ嫌なことを話すし、でもその事実からも、とても繊細な面があるとわかる。怖い思いをしながらも演じている、その大胆さと繊細さのバランスがとても魅力的ですね。見た目は大きいけれど、考えていることやしようとしていることは繊細で、常に人が望んだり「こうだろう」と思うことの逆をいったり、いきたかったり、いってしまったり。そういう姿には端から見ていてすごく惹かれるし、役者としていろいろなことに挑戦しながら、自分を保って伸ばしているところも魅力的ですね。
城田 ありがとうございます(照笑)。芳雄くんは、ミュージカルの“お手本”と言うべき人ですね。僕たちの世代のミュージカル俳優には、もちろん(山崎)育三郎や(田代)万里生クンなど、すばらしい人が大勢いますけど、その先頭に「井上芳雄」という人がいて成り立っている。落ち着きもありますし、観察力や洞察力も高い。僕は芳雄くんがこれまで出てこられた舞台を全部知っているわけじゃないけれど、たぶんトートは今まで芳雄くんが演じてきた役では求められなかった要素の役じゃないかと思います。だからこそ悩んだり葛藤したりしていたけど、去年舞台に立ったことでそこがパンと解けて、自分のものになさった感じがしていて。それは見ていてすごくおもしろいですし、“お手本”というのはそういうことなんですよね。稽古中よりも本番が、絶対に良くなきゃいけないんです。僕は「稽古場の方が良い」と言えてしまうなんて、ダメなパターンです(笑)。ねっ、芳雄くん?
井上 それはノーコメントで(笑)。端から見たことはさておき、本人としてはそう感じてしまうんだもんね。
城田 総括すると、稽古場で練って練って凝縮されていって、本番でそれが爆発する。それがベストだと思います。そういう意味で、本当にお手本になるべき存在。安定感もあって、経験値が抜群に高いし対応力もすごい。まさに王道のど真ん中で、「プリンス」と呼ばれる由縁が「わかります」っていう感じです。
(後編へ続く)
●公演情報
『エリザベート』
2016年6月28日~7月26日 東京公演 帝国劇場 (公演終了)
2016年8月6日~9月4日 福岡公演 博多座
2016年9月11日~9月30日 大阪公演 梅田芸術劇場メインホール
2016年10月8日~23日 名古屋公演 中日劇場
Staff
脚本/歌詞 ミヒャエル・クンツェ
音楽/編曲 シルヴェスター・リーヴァイ
演出/訳詞 小池修一郎
Cast 花總まり・蘭乃はな/城田 優・井上芳雄
/田代万里生・佐藤隆紀(LE VELVETS)東京公演のみ/古川雄大・京本大我(ジャニーズJr.)
/未来優希/涼風真世・香寿たつき/山崎育三郎・成河 ほか