インタビュー & 特集

mag5連動企画 宝塚歌劇 雪組公演『ローマの休日』公演レビュー

 7月10日に東京・赤坂ACTシアターでの上演を終え、7月30日より大阪・梅田芸術劇場メインホールでの公演が控えている宝塚歌劇・雪組公演『ローマの休日』。
雑誌『omoshii mag vol.5』で早霧せいなさんのインタビューを担当してくれた藤本真由さんによる、公演レビューをお届けします。(文/藤本真由[舞台評論家])

INTERVIEW & SPECIAL 2016 7/11 UPDATE

※舞台写真はゲネプロ撮影時のものです。ネタバレを含みますのでご注意ください。
※早霧せいなさんのロングインタビューを掲載している雑誌『omoshii mag vol.5』はこちら。撮り下ろしのポートレイトもぜひご覧ください。


 グレゴリー・ペック&オードリー・ヘプバーン主演の1953年の映画「ローマの休日」。世界中で愛され続けるこの名作の舞台化に、宝塚雪組が挑んだ。
 新鋭・田渕大輔が作・演出を担当、映画版よりも新聞記者ジョー・ブラッドレーの人物描写を掘り下げ、男役トップスターが芯を務める宝塚版ならではの作品に仕上げた。そして、主人公ジョーを演じる早霧せいなが実にいい。早霧は雪組トップスター就任以来、漫画原作の『伯爵令嬢』『ルパン三世』『るろうに剣心』といった、すでにイメージが確立されている有名作に次々と挑戦、好評を博してきた。ただ、二次元を三次元へと立ち上げるこうした試みと、映画の舞台化とではまた異なる難しさがある。たとえば、「ロミオとジュリエット」や「ベルサイユのばら」のように何度も上演されてきている作品ならば、さまざまな演者が演じてきており、あくまで脚本をもとに自分なりの役作りをふくらませることができる。だが、「ローマの休日」は確かに日本でも何度かミュージカル化、舞台化されてきているとはいえ、人々のイメージにまず強くあるのは映画のグレゴリー・ペックの名演であろう。つまり、ほとんど唯一無二のお手本がある中で、そこから離れて独自の役作りを追求するのはなかなか難しいことに思われる。しかしながら早霧は、宝塚版の脚本に真摯に忠実に向き合うことで、映画とは異なる、そして宝塚の男役ならでは、男役・早霧せいなならではのジョー・ブラッドレーを誕生させた。
 いかがわしいスクープを追い続け、職場には遅刻するなどちゃらんぽらん、アメリカへの望郷の念に生きている彼は、アン王女と出会い、変わってゆく。スクープ記事の向こうにいる相手もまた自分と同じようにさまざまな悩みや葛藤を抱える人間であること。飽き飽きしていたローマの街も、王女のように新鮮な目で見れば多くの魅力にあふれていること。世界や人生に対していわば傍観者的、刹那的であった彼は、王女との出会いを通じて本当の自分と出会い、自分自身の人生を生き始める。ローマの街を楽しくめぐった一日が、本当の人間同士に戻ったジョーとアンとが繰り広げる幸せな“第一幕”だったならば、この物語の“第二幕”は、ジョーが記者、アンが王女というそれぞれの本来の“立場”に戻り、記者会見で対面するシーンである。ここで二人は、記者と王女という立場に許された言葉でのみ語ることで、互いに自分の気持ちを伝えねばならない。いわばそれぞれが“記者”と“王女”を演じ、セリフを交わす即興劇であり、記者会見に居合わせた人々は知らずして“観客”となっている。ただ一人、すべてを知るジョーの相棒、カメラマンのアーヴィングが、即興劇の登場人物にして明白な観客を務める以外は。この、ジョーと王女の“即興劇”は、舞台という場に置かれたとき、一層痛切な意味合いをもって客席へと届く。この後、ジョーと王女が同じ“舞台”に立つことはもはやないだろう。ジョーに許されているのは、王女が華やかな国際親善の“舞台”で繰り広げる物語を遠く見守ることしかない。映画版を観たとき、これからお互いへの思慕を心に秘めて生き続ける二人のせつなさに胸を衝かれたものだが、ラストシーン、ローマの街をヴェスパに乗って駆け抜けるアンの面影を浮かべる早霧ジョーの表情を観ていて、映画版で感じたそのせつなさと同じ感情に、激しく胸をしめつけられる思いがした。周囲の人々とのコメディ・タッチの芝居もやりとりが絶妙で、大いに笑いを誘う。いい加減ながらも憎めないキャラクターで、アーヴィングなどジョーに迷惑をかけられ通しなのにいつも許してしまう。このあたりの造形は早霧の持ち味である軽やかなキュートさが大きく生きたところ。文句なしに男役・早霧せいなの代表作と言っていいだろう。

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 アン王女を演じる咲妃みゆは、オードリー・ヘプバーンのあまりに鮮やかで強烈すぎるイメージと格闘した様が見受けられた。登場シーンでシンデレラの如く靴が脱げてしまう際のお茶目なかわいさ、また、ローマの一日を過ごし、王女の立場に戻ってからの堂々たる芝居はさすがだが、王女の立場を偽り“アーニャ”として過ごしている時間の演技が作らず自然体に見えるよう、もう一工夫欲しい。
 ジョーのよき相棒、カメラマンのアーヴィングを演じたのは彩凪翔。前作「るろうに剣心」では悪徳実業家・武田観柳を怪演、「♪ガトガト~」の名フレーズで客席を大いに湧かせ、役者として一皮むけた感がある。この作品でも、口ひげあごひげがよく似合う、ジョーに振り回されっぱなしながらも最後はすべて許してしまう度量の大きな男を好演、こういう人物と親しいからには…と主人公の男としての格を上げる親友役を見事造形した。

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 映画で王女の髪をカットする美容師役は、宝塚版では王女に恋心を抱いてローマを追い掛け回すエキセントリックなイタリア男に変身して登場。このマリオ・デ・ラーニ役には真面目なイメージのある月城かなとが挑戦、新境地を拓いて笑いをとった。
 ジョーの上司、ローマ支局長役には鳳翔大。大スクープの予感に興奮して歌い踊るノリノリのナンバーでは、「サタデー・ナイト・フィーバー」ばりのポーズも登場して大盛り上がり。長身がスーツ映えし、もう一役の映画スター役でもかっこよく決めて見せた。諜報部員たちに王女捜索を命じる第二幕冒頭のナンバーでコミカルな魅力を発揮するのがプロヴノ将軍役の真那春人。美容師マリオのアシスタント役、陽向春輝は、くるんとしたもみあげも印象的なルックスで、一挙手一投足から目が離せないおかしさを全身から発揮。花組の芸達者・天真みちるを彷彿とさせる演技で、これからが楽しみな男役である。娘役陣の50年代ファッションの着こなしと髪型もスタイリッシュで目を奪われる。雪組の強みは、ベテランから若手まで、一人一人が自分の作品内における役割をきっちり果たすことで舞台を大いに盛り上げていること。ローマの街をめぐるこの物語も、ローマの街に生きる人々、王宮の人々のヴィヴィッドな人物造形なしにはこんなにも楽しく心残る作品とはならなかったであろう。

※大阪公演は、7月30日(土)~ 8月15日(月)まで梅田芸術劇場メインホールにて。
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