インタビュー & 特集
INTERVIEW!『8月の家族たち』麻実れいさん&音月桂さん
三世代家族の毒舌本音バトルを描く『8月の家族たち』が、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの演出でこのほど日本初演されます。ガンの治療薬の過剰摂取による薬物中毒の母を演じる麻実れいさんと、奔放な三女に扮する音月桂さん。共に宝塚雪組トップスターを務めたお二人の楽しいお話をどうぞ。(取材・文/藤本真由(舞台評論家)、写真/笹井タカマサ、ヘアメイク/宮内宏明[M’s factory](音月)、スタイリング/柳理央(音月)
INTERVIEW & SPECIAL 2016 4/26 UPDATE
――大変なエネルギーのいる作品かと思いますが、お稽古の進みはどんな具合ですか。
麻実 最初に荒訳をいただいて読んだのですが、おもしろいなと思ったんです。不思議な台本なんですよ。全員がシリアスに演じようと思えばすごくシリアスになって、2、3か所しか笑いが起きないと思うんですけど、それを今回、コメディとしてやるわけですから。KERAさんと、魅力的なキャストの方々とご一緒できるというのも楽しみです。思えばのんきでしたね(笑)。全員がそれぞれまずは小さな動きまで作って、その全部違う動きを一つにするという作業をやらなくてはいけないから、3倍時間がかかるんです。普通の芝居と創り方を変えなくちゃいけない。とても豊かな作品で、なかなかいただけないようなお役ですから、とにかく稽古場で頑張って、いい形で初日を迎えたいですね。
音月 映画版を観たとき、私が演じるカレンは、伸び伸びと自由に本能のまま生きていて、空気が読めないというか(笑)、役に共感できないな…と思ったんです。でも次第に、家族への愛とか、愛してほしいという気持ちとか、そういった愛に対する執着があって、実は一番純粋に家族を愛している人なのかもしれないなと思ったとき、少しストンと落ちるものがありました。非常に個性的な家族ですが、それぞれとのやりとり、コミュニケーションを大切にして、長ゼリフも独りよがりにならないよう大切にしたいと思いますね。
――元雪組トップスターの先輩後輩同士で母娘を演じられます。
麻実 桂さん、すごく素敵でね。私も追いつかなくちゃって。
音月 そんな~。やめてください~。
麻実 舞台での姿勢も素敵なんですよ。宝塚の男役さんって、上月晃さんとか真帆志ぶきさん、鳳蘭さん、榛名由梨さん、それに私たちの時代って、特に男くささがムンムンしているような役が多かったんですよね。だから、退団してから何か邪魔なものが取れて本来の自分の性、女に戻るまでに10年、15年とかかって、ようやく最近何とかなってきたんです。それが、桂さんは退団して3年っていうでしょ。ちょっと待って~と。だから聞いたの。在団中に女役はやった?って。
音月 背もそれほど高くなかったし、けっこう多かったんです。
麻実 かえって良かったわよねって(笑)。
音月 でも、宝塚時代はスカートを持っていなかったので、退団してから久しぶりなんですが、何だかスースーして(笑)。
麻実 皆そうだから(笑)。でも桂さん、タイトスカート姿がとても素敵なんですよ。タイトスカートがはきこなせる女性ってなかなかいないでしょう。宝塚の生徒さんってどこかしらこう匂いというか雰囲気があるんだけれども、今回の写真撮りで初めてお会いしてごあいさつしたとき、全然わからなくて。普通の女優さんかなと思って、後で聞いたら宝塚の、しかも雪組の元トップさんっていうから、大変失礼してしまったなって。
音月 いえ、私はもう一方的に存じ上げていて、稽古場でもずっと拝見してるんですけれども、麻実さん、今回出ずっぱりですよね。膨大なセリフも早くから入っていらっしゃるし。私の出番は、皆さんがかなりあたたまってからの登場なので…。
麻実 ちょっと大変よね(笑)。
音月 ターコ(麻実)さんも含め、皆さんが職人のように稽古に取り組まれている姿を見て、客観的に見ていてはいけないとも思うんですが(笑)、ここに一緒にいられることがとても光栄です。カレンは母とのやりとりはあまりないんですよね。
麻実 ちょっとだけ交わす言葉がきついのよね。でも、つながりが感じられる一言もあって。私が演じるバイオレットは薬物中毒で、いろんな薬を飲んでいるし、認知症もある。それでまあ、もう言いたいことを言っていいんだ、みたいになってるところがありますけど(笑)、薬をそんなに飲んでいないときは、ちょっと優しくなったりもします。
音月 カレンもお母さんのそういうところをわかっていて、100%許すではないですけど、少しでも優しくしてあげたいとか、自分が明るく振る舞うことで助けになりたいと思っているんじゃないかなと思うんですよね。それにしても三姉妹が、それぞれ全然違う個性で(笑)。
麻実 3人とも、とても華やかな女優さんでね、コクーンの空間を満たすのにとてもいいと思いますよ。
音月 稽古場の中二階からお稽古を拝見していたんですけれども、ターコさん(麻実)がものすごいエネルギーで空気を回しているのを感じて、劇場に行ったら客席のお客様とも一緒になって、いったいどんな感じになるだろうって。私はシアターコクーンの舞台に立つのは初めてなので。
麻実 シアターコクーンは広いんですけど、集中できる空間なんですよ。とてもいい劇場。
音月 劇場の空間によってお芝居を変えたりされるんですか。
麻実 それはしないけれども、劇場の空間とお芝居が合っていないときは、どんなにもがいてもだめね。この空間いらないなと思うと、お客様にも伝わっている。どんなに小さな空間でも、作品と合っていると、とてもいい感じなんですよ。今回は二階建てのセットで、いついかなるときも客席から見られているでしょう? いやらしいわあ(笑)。引っ込めないし、休んでいられないわあって。今までも出ずっぱりの作品はあったんですけど、今回はちょっと質が違っていますね。でも、本当にキャストとスタッフが仲が良くて、みんなで腕を組んでいる感じなんですよ。だからとてもいい作品になると思いますね。
――KERAさんの演出についてはいかがですか。
麻実 初めてご一緒するんですが、とても辛抱強くてしぶとくて、そして豊かな方ですね。「そこは、こういうほうがいいんじゃないか」ってご自分で表現してくださるんですけど、それが本当にお上手なのね。そしてできなかったら何度も何度も繰り返す。本当にしぶとい(笑)。とても素敵な演出家だなと思いますね。他のキャストへのダメ出しを聞いていてもとても勉強になって。
音月 私もKERAさんと初めてご一緒するんですが、ターコさんがおっしゃったように、他の方へのダメ出しを聞いていると客観的に考えることができてとても勉強になりますね。伸び伸びやってみてと最初におっしゃって、そこから、いいところは認めてくださって伸ばしてくださる。つぶすのではなくほめて伸ばす方なんだなと思います。共演者の方それぞれのいいところをきちんと見つけていってくださる感じです。何度も繰り返してくださるのも、役者としては不安がなくなってとても安心しますし。そんな演出のもと、共演者の皆さんと、本当の家族以上の家族になれたらなって、ちょっとおこがましいかもしれないですが。
麻実 物語は、家族の日常のある一部を切り取った感じで、会話を通じてそれぞれの心理状態がとてもしっかりと書き込まれています。ブロードウェイ版はとても笑いが起きて、映画版はシリアスで、ウエストエンドでもそんなに笑いが起きなかったそうだから、演出によってどちらにも転べるんでしょうね。
音月 だからこそ、笑わせようということではなく、お芝居に嘘があってはいけないと思います。そうして真剣にカレンとして生きていると、クスッと笑いが生まれてくる瞬間があるのかなと、KERAさんのお話を聞いていても思うので。
麻実 お客様それぞれの心に絶対に何かが残る作品なので、老若男女を問わず観に来ていただきたいですね。最初から最後まで平面的ではなく、立体的な芝居が続いていく作品です。とても大事なものが含まれていると感じるので、きっと何かしらの感情をもってお帰りになっていただけると思います。
音月 家族だからこそ打ち解けられる場合もあれば、気を遣って言えないこともあったりして、この作品を通じて、自分自身が「ちゃんと家族や両親にありがとうって言えてるかな?」って考えたりします。一番言いたい相手なのに照れくさくて言えていないかもしれないな…と。観終わったとき、ちょっと家族に素直になれるかもしれない、そんなプレゼントを持って帰れる作品だと思います。私もお客様の空気を感じつつ、楽しんで舞台に立ちたいと思います。
麻実れい(あさみ・れい)
宝塚歌劇団の雪組男役トップスターとして活躍し、1985年に退団。以降、多くの話題作に出演。リサイタル等でも活躍。主な出演作に、舞台『オイディプス王』『二十世紀』『サラ』『トップ・ガールズ』『サド侯爵夫人』『みんな我が子』『夏の夜の夢』『おそるべき親たち』『炎 アンサンディ』など多数。芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章、読売演劇大賞最優秀女優賞、朝日舞台芸術賞、紀伊國屋舞台演劇賞個人賞など受賞多数。
音月桂(おとづき・けい)
1998年に宝塚歌劇団に第84期生として入団。2010年に雪組トップスターに就任。歌、ダンス、芝居と3拍子揃った実力派と称される。2012年『JIN-仁/GOLD SPARK!』で惜しまれながら退団。退団後の主な出演作に、連続ドラマ『GTO』『MOZU』、映画『劇場版MOZU』、ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』、舞台『十二夜』などがある。最新作として連続ドラマW『メガバンク最終決戦』など。
『8月の家族たち August:Osage County』
[東京公演]5月7日(土)~29(日) Bunkamuraシアターコクーン
チケット料金(全席指定・税込):S席 10,000円、A席 8,000円、コクーンシート 5,000円
お問合せ:Bunkamuraチケットセンター 03-3477-9999(10:00~17:30)
[大阪公演]6月2日(木)~5日(日) 森ノ宮ピロティホール
チケット料金(全席指定・税込):10,000円
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00~18:00)
作:トレイシー・レッツ
翻訳:目黒条
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:麻実れい、秋山菜津子、常盤貴子、音月桂、
橋本さとし、犬山イヌコ、羽鳥名美子、中村靖日、藤田秀世、小野花梨、
村井國夫、木場勝己、生瀬勝久
詳細はhttp://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/16_august/をご覧ください。