インタビュー & 特集

INTERVIEW!現代能楽集Ⅷ 『道玄坂綺譚』一路真輝さん

能楽の世界を三島由紀夫が近代劇として翻案したものを、さらに劇作家・演出家として演劇界を牽引しているマキノノゾミさんが現代劇として書き下ろす『道玄坂綺譚(どうげんざかきたん)』。『卒塔婆小町』、『熊野(ゆや)』の二つの作品が同時進行。二重、三重のワクワク感が隠された新作が生まれます。(撮影/熊谷仁男、文/小柳照久、ヘアメイク/岩井マミ〈M CO;LTD〉、スタイリング/遠山真紀〈M CO;LTD〉)

INTERVIEW & SPECIAL 2015 10/2 UPDATE

――一路さんというとミュージカル女優というイメージが強かったんですが、最近はストレートプレイも多いですね。
昨年『ガラスの仮面』の月影千草役をやらせていただいたんですが、その後、石井ふく子さんプロデュースの『おんなの家』での葵役、翻訳劇『スワン』でドラ役、その後、今年に入って時代劇『春日局』でのお江与役など、ミュージカルじゃない舞台が続きました。そして最近は『シャーロック ホームズ2 〜ブラッディ・ゲーム〜』のワトソン役で久しぶりにミュージカルをやらせていただいたので、昨年は比重でいうとミュージカルじゃない作品が多い1年でした。
――ミュージカルだとクライマックスになるとオーケストラが鳴って盛り上がりますが、ストレートプレイのお芝居における難しさや面白さはいかがなものですか?
ミュージカルは音楽の力が大きくて、作詞家・作曲家によって確実な起伏がつくられています。もちろん、それを歌いこなすのは役者の力なんですけれど。それに慣れていたので、音楽なしの空間で、自分の気持ちだけでお芝居をクライマックスに持っていくというのは、最初は不安でした。「これで良いのかな?」って。ただ、この経験があってこそ、ミュージカルの舞台に戻った時に「鬼に金棒」(笑)になれるかもしれないなというのもあって、今、ストレートプレイを楽しんでいます。
――ストレートプレイの場合、無音の中でセリフの粒が立っていき、客席も深く深くセリフに集中していく感がありますね。
それは舞台上からも感じます。お客様と舞台上の人間が一つのものに集中している空間が大好きなんですが、ストレートプレイだとそれをより強く感じます。音楽が鳴っている時は発散型でしたが、芝居だけだと集中力が一つになるときがわかりやすくて、それはとても恐いけれど、演じていて何とも言えない時間でした。やってみないとわからないことってあるんですね。
私はミュージカルの出演が多かったのですが、プライベートで観るときは、実はストレートプレイが好きなんです。同じフィールドのものは、手の内がわかっちゃうことがあるんですよ。例えば、このメロディが流れてくるということは、次はこういう展開になるのかなって。ストレートプレイは未知の世界なので、そういうことを感じることなく楽しんでいたんです。でも、いざやってみたら、本当に手ごわい。本気で芝居というものにぶつかってみて、また芝居の観方が変わってくるという、面白い現象が起きています。

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――『道玄坂綺譚』は、三島由紀夫の『卒塔婆小町』と『熊野』という短編二つを基にした話が同時進行するという斬新な舞台です。
もともとの能があって、三島さんの作る「昭和の近代」の世界があって、さらに今回は「平成の現代」としてアレンジされています。チラシは昭和の香りが漂うノスタルジックな雰囲気ですが、舞台では、いきなり渋谷らしき場所のネットカフェが登場します。
私が担当する『卒塔婆小町』のパートは、能楽やお芝居好きの方にはお馴染みの作品。「絶世の美女に対して“美しい”と言ったら死んでしまう」という話が、どういうアレンジがなされるのか。二つの作品が合体することで、『熊野』の登場人物たちとどういう人間関係になっていくのか、次の展開が読めなくなっているところが面白いですね。役としては「年齢不詳の老婆」と「絶世の美女である洋館の女主人」の演じ分けになります。芝居としては、私がどこの時代に飛ぶのか楽しみにしていてください。
――もともとの能のスタイルだと、装置がなく衣装も変わらず、役者の技術だけで魅せる役だったと伺ってます。
時には歌舞伎役者や男優も演じられている小町という役を、私がやったらどうなるんだろう? という不安はありました。でも今回は舞台が現代と幻想の世界で、二重構造の作品にしてくださったおかげで、見た目で変化をつけることはできそうです。そういう意味では、構成や演出に助けられると思うんです。とはいえ、それ以上に、私が中身を変えて演じなければいけないというプレッシャーはあります。一つの舞台の上で、こんなに振り幅が広い役を演じられることはそうそうないので、すごく楽しみです。

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――能という特性からか、もともとの作品だと芝居のラストは余韻を持たせて、観客はあれこれ考えさせられます。客席に質問を投げかけられて終わる、そんな印象を受けました。
宿題がありますよね。演じる側としては、演出家と相談の上「私達はこういう思いでアピールしようね」というのがあって、決着をつけています。でも、受け止め方が、お客様の年齢や心情などによって変わってくるのは「アリ」だという前提です。今回はどんなラストをマキノさんが用意されているのか、楽しみにしていただきたいと思います。
――いずれにしても、ケレン味たっぷりで幻想的なお話ですね。時間や空間を自在に越えてしまう世界です。
企画・監修の野村萬斎さんから「人物を掘り下げて、人物の生い立ちまで考えてやるものではない」という考え方もあると伺ったんです。「そういう切り口もあるのか」と思いましたね。例えば狂言とかで、人間がいきなり狸になっちゃいますけれど、リアルに見せようとしたところで舞台は映画と違ってそれができないんです。でも、「どう見せたらいちばん老婆に見えますか?」と萬斎さんに聞いたら答えていただけると思うので、それを試してみたら面白いんじゃないかな。ものすごくリアルなお芝居もありますが、今回は、その場その場でキャラクターになって演じる、今でいうショーの感覚で捉えられるお芝居でもあるかもしれませんね。
『卒塔婆小町』と『熊野』という、まさかの話とまさかの話が交互に織りなされていき、最後に一つの作品『道玄坂綺譚』としてどうよみがえらせるのか。マキノノゾミさんの新作で、若手俳優たちも一緒に皆で新しい世界を作ります。私にとっても、チャレンジが沢山あって、新しい扉が開く作品だと思っています。

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一路真輝(いちろ・まき)
愛知県出身。宝塚歌劇団雪組トップスターとして『風と共に去りぬ』、 『ベルサイユのばら』などの話題作に出演し、1996 年日本初演となる『エリザベート』で退団。同年、東宝ミュージカル『王様と私』で女優としてスタート。2000年東宝版『エリザベート』初演でエリザベート役に臨み、2006年の日生劇場公演まで出演。また『キス・ミーケイト』、日本初演『アンナ・カレーニナ』に出演。結婚、出産を経て2011年に復帰し、『リタルダンド』、『ルドルフ ザ・ラスト・キス』などに出演。2014年は、ミュージカル『シャーロック ホームズ~アンダーソン家の秘密』と『ブラック メリーポピンズ』、ストレートプレイ『ガラスの仮面』、『おんなの家』、『スワン』とすべて新作の舞台に精力的に臨み、宝塚100周年記念公演にも参加と大活躍。2015年は『春日局』、ミュージカル『シャーロック ホームズ2 ~ブラッディ・ゲーム~』出演と、幅広い作品に取り組んでいる。コンサートやライブ活動も定期的に開催。1996年第22回菊田一夫演劇賞、2005年第12回読売演劇大賞優秀女優賞受賞。

STORY
舞台は、東京。とある繁華街の中のネットカフェ。映画監督を志す従業員のキイチ(平岡祐太)は、ネットカフェに長期滞在する年齢不詳の女、コマチ(一路真輝)に興味を抱く。彼に促され、コマチは往時を振り返る――。また、同じネットカフェにてその日暮らしをする家出少女ユヤ(倉科カナ)のもとに実業家のムネモリ(眞島秀和)が現れる――。『卒塔婆小町』と『熊野』、そして現実と幻想が入れ子構造のように重なりながら進んでいき、観ている者をこの世界ではないどこかへといざなう幻想譚。
▮コマチ(一路真輝)…ネットカフェで暮らす年齢不詳の女。幻想の中では洋館の女主人。
▮キイチ(平岡祐太)…ネットカフェの従業員。幻想の中では洋館の女主人の恋人・深草貴一郎。
▮ユヤ(倉科カナ)…ネットカフェで暮らす少女。幻想の中では男性の庇護のもと美しく成長した女性・熊野。
▮ムネモリ(眞島秀和)…実業家。幻想の中では熊野を所有する男性・宗盛。
▮カオル(水田航生)…ネットカフェの従業員。キイチの後輩。幻想の中では熊野の恋人・薫。

現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』
三島由紀夫作 近代能楽集『卒塔婆小町』『熊野』より
作・演出:マキノノゾミ
企画・監修:野村萬斎
出演:平岡祐太 倉科カナ 眞島秀和 水田航生 根岸拓哉 富山えり子
粕谷吉洋 神農直隆 藤尾勘太郎 奥田達士 長江英和  一路真輝
日程:11月8日(日)~21日(土)
会場:世田谷パブリックシアター
公式サイトhttp://setagaya-pt.jp/


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