インタビュー & 特集

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怒りに負けるのではなく、それでも母に生き続けてほしい――こまつ座『母と暮せば』松下洸平さんインタビュー

山田洋次監督が、「『父と暮せば』の対になる作品を残す」という井上ひさしさんの思いを受け継いで製作した映画『母と暮せば』。いよいよ10月5日(金)に幕を開ける舞台版では、劇団「渡辺源四郎商店」の畑澤聖悟さんが脚本、栗山民也さんが演出を手がけます。長崎で被爆した母と、息子の幽霊の交流を描く本作。『父と暮せば』『木の上の軍隊』に続く、こまつ座「戦後“命”の三部作」最後の一作となります。『木の上の軍隊』に続いての出演となる松下洸平さんに、話を聞きました。(取材・文/高橋彩子、撮影/藤田亜弓)

INTERVIEW & SPECIAL  2018 10/5 UPDATE

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一週間食べていない人間の
精神状態を想像する

――お稽古も佳境ですが、今、どんなことを感じていらっしゃいますか?

 演出の栗山(民也)さんが俳優の気持ちを繋げていく作業を丁寧にしてくださるので、日に日に、中身の詰まった舞台になってきています。それを、浩二役の僕と母の伸子役の富田(靖子)さんの二人で背負っていかなければならない。日々大きくなる課題に耐えられる心と身体を作っていかないといけないですね。二人芝居は何度かやっていますが、『スリル・ミー』では一瞬はけた時に気持ちを整えられるし、『木の上の軍隊』でも4秒くらい裏で水を飲めるところがあったけれど、今回は暗転もないですし、そもそも飲食ができない幽霊という設定なので、本当に水が飲めない! 大変です。それに、例えばアメリカ人やドイツ人などを演じる際には資料を読んだり実際にその場所に足を運んだりして調べることができますが、死後の世界は体験できないので、その意味でも今回は、考えることが多くて気が抜けません。

――精神的なキツさもありそうですね。

 やはり戦争を描いているので、普段、のほほんと生活している僕には想像できないことがたくさんあります。僕たちは想像することでしかそれを表現できないわけですが、この想像という作業が難しくて。実際に長崎にも行きましたし、写真や映像からも、当時の長崎がどれだけ悲惨な状況だったかを少し知ることができましたが、ただただ胸が痛くて。今回のお芝居では、原爆投下が天災ではなく人災だということが大きなポイントになっていて、それは東北出身の畑澤(聖悟)さんがお書きになったからこそ。僕らも、単に「辛かっただろうな」と思うだけでなく、「何故こういうことが起きてしまったのか」という怒りを感じる必要があります。ただ、その怒りに負けるのではなく、怒りを抱え、母と共有した上で、それでも母に生き続けてほしいという思いが勝っていかなければならない。死んだ人間だからかもしれないけれど、生きていくことの大切さというものを、誰よりも感じているのが浩二だと思うので、そこは大事に演じたいですね。

――お稽古では、食べ物が食べられない浩二に伸子が想像上のおにぎりを食べさせるシーンでの、美味しそうな演技が印象的でした。

 僕ら今の世代の若者には、死ぬほど腹が減っているという経験って、なかなかないですから。栗山さんとはこれまでにも何本かご一緒していますが、戦時中など辛い時代を描いた作品が多くて、「一週間食べていない時の人間の精神状態を想像しなさい」とよく言われます。死ぬほど大好きだった、母親の作るおむすびが、口に入って喉を通って昆布の味がうわーっと口いっぱいに広がる感覚を想像するために、台本とまったく同じようにとろろ昆布とごまとお塩でおにぎり作って食べてみたりもしました。

 

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改めて、親からもらうものの大きさを感じる

――劇中で編まれる伸子と浩二の関係には、時にスイートな雰囲気も漂いますね。お母さんと息子というのは、基本的にそういうものなのかなとも思いますが。

 そうかもしれないですね。浩二は母に対して、単に息子というだけでなく、ある時は親友、または兄、あるいは父親のようでもある。富田さんのお芝居のチョイスの仕方がまた素晴らしくて、純然と“母親”として存在するばかりではないので、僕もそれに応えるため、時に息子と母という関係を飛び越えて傍にいたいなという思いがあります。富田さんがお芝居の中でとても悲しそうにされる瞬間には、励まさなくてはという感覚も芽生えるし、それが……今、スイートという素敵な表現を使ってくださったので僕もそれを使いたいんですが(笑)、そういうスイートな雰囲気を含め、色々な関係性として表れるといいのではないかと考えています。

――シリアスなだけでなく、可笑しい場面、楽しい場面もあります。たとえば町子が新しい婚約者を連れてくる話などは、浩二にとって辛いことのはずなのに、どこか面白みももって語られますし。

 劇の前半で僕と母さんが過ごす幸せな時間、その楽しさや喜びによって、後半の悲しさと寂しさが、より大きなものとなってお客さんに届く。それは僕らも強く意識しています。「町子が、男ば連れてきよった」という台詞にしても、抒情的に言ったら怨念になってしまう。生きている人間ならそういう表現もあるかもしれないけれど、浩二は生きていないので、怨念ではなく、奥歯を噛みしめるように言わないといけないんです。そういうところの栗山さんの言葉のチョイスがすごくて、いつも「確かに」と思いながらダメ出しを受けています。

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――ちなみに、ご自身と浩二とで、共通点はありますか?

 やっぱり母親思いなところは、とても共感できますね。僕も母が大好きですし、今の僕があるのは母のおかげ。僕は絵の仕事をしている母の影響で絵を描くようになったのですが、浩二も新しい生命を生み出す助産婦である母の背中に憧れと誇りを抱いたから、医者を志したんだと思うんです。浩二を演じながら、改めて、親からもらうものの大きさを感じています。

――浩二は音楽が好きな青年。芸術への愛も共通しますね。

 あの時代に、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲を恋人と一緒に聴きながら愛を語らうなんて、言っている僕の顔が赤くなるくらいロマンティックですよね。感受性の豊かなロマンティストだったのだと思います。山田(洋次)監督や映画に携わった方々は、浩二を作るにあたって色々なモデルを探されたそうですが、中でも竹内浩三さんという、詩人であると同時に映画監督になりたくて、音楽も大好きだった方の存在は、大きかったと聞きました。実際、『母と暮せば』でも音楽の力は大きいですね。音楽は、井上さんのお芝居に欠かせなかったもの。この作品はこまつ座の芝居である一方、新作であって井上さんの書かれたものではないけれど、やはり劇中に出てくる音楽はすべて作品に不可欠なものになっていて、栗山さんもタイミングから何から、こだわりをもって作ってくださっている。どこかで井上ひさしさんのことも感じていらっしゃるのかもしれません。

――今作は、『父と暮せば』『木の上の軍隊』と続いた「戦後“命”の三部作」の完結編です。そのことについてはどうお感じですか?

 僕は井上ひさしさんにお会いしたことがないですし、『木の上の軍隊』は蓬莱竜太さんが書いたものですから、井上さんの言葉を喋った経験が僕にはないんです。でも僕たちは、戦争の悲惨さや人が争うことの無意味さみたいなものを伝えて、井上さんのバトンを次の世代に渡さなければいけない。そのためには、過去にあった物語を、「昔は大変だったなあ」で終わらせるのではなく、今に繋がるドキュメントとして伝えなければなりません。井上さんの作品はどれもそうですが、この三部作は特にそうしたメッセージ性が強いと思うので、そのうちの二作をやらせていただくことには相当な覚悟と責任を感じます。僕は俳優であって政治家ではないので、世の中に対するメッセージを自分の言葉で訴えることはないけれど、栗山さんとご一緒していると、演劇人としてお客さんへメッセージのバトンを渡すことの大切さについて考えさせられる。だから、こうした作品に携わらせていただけるのはすごく有難いです。

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CDデビュー10周年
今までやってきたことを
全部詰め込んだライブをやりたい

――栗山さんとの作品群に限らず、例えば今年初めに出演された『TERROR テロ』も、ストイックな演技が求められる重いテーマの作品でした。そうした舞台に出演されるのがお好きだったり……?

 あはは。何かストイックな芝居ないですか?なんて探していることは、もちろんないですよ(笑)。

――でも、こういうお芝居がお嫌いではないですよね??

 ……嫌いではないですね。時々、ポップなコメディ作品などもやらせていただくのですが、演出の方に「ちゃんとやらないで」「役のことを掘り下げるのはもういいから」なんて言われてしまったりして、最近、バランスの取り方が分からなくなってきました(笑)。

――今後、やってみたいジャンルや作品は?

 こだわりはあまりないんですよ。いただいたお仕事を懸命にやるだけなので。ただ、音楽で言えば、年1本、ワンマンライブをやらせていただいているのですが、今年の11月でちょうどCDデビューして10年になるので、周年の機会に、今まで自分がやってきたことを全部詰め込んだライブをやってみたいですね。今までのライブでは音楽1本だったのですが、踊りと、芝居と、歌と、絵の4つをすべて入れたショーができたら面白いだろうなとは思っています。

――今、31歳。30代のヴィジョンをどのように思い描いていますか?

 芝居にしろ音楽にしろ絵にしろ、やりたいこともやれることもまだまだ無限にあるとは思いますが、僕はそんなに器用な人間ではないので、一個一個やっていくしかないんです。この30代、絶対に忘れてはいけないなと思うのは、目の前のものに一生懸命であること。今でいえばもう、『母と暮せば』のことだけ。もちろん、来年、再来年の仕事は気になります。「あれをやっておかないと間に合わない!」と思ったりもしますが、それでも今はこの作品のことしか考えない。そういうふうにやっていくことが、未来に繋がる気がするんです。

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松下洸平(まつした・こうへい)
1987年生まれ、東京都出身。2008年にシンガーソングライターとしてメジャーデビュー、2009年BROADWAY MUSICAL『GLORY DAYS』で俳優として初舞台。以後、『アドルフに告ぐ』、『木の上の軍隊』、ミュージカル『スカーレット・ピンパーネル』、『TERROR テロ』などの舞台出演のほか、映像、音楽と多方面で活躍中。2018年12月~2019年1月に、ミュージカル『スリル・ミー』への出演も決定している。

こまつ座 第124回公演・紀伊國屋書店提携
『母と暮せば』
2018年10月5日(金)~21日(日)新宿東口・紀伊國屋ホール
作:畑澤聖悟
演出:栗山民也
協力・監修:山田洋次
出演:富田靖子、松下洸平

【茨城公演】2018年10月27日(土)水戸芸術館 ACM劇場
【岩手公演】2018年11月3日(土・祝)花巻市文化会館
【滋賀公演】2018年11月17日(土)滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール
【千葉公演】2018年11月23日(金・祝)市川市文化会館 小ホール
【愛知公演】2018年12月1日(土)春日井市東部市民センター
【埼玉公演】2018年12月8日(土)草加市文化会館
【兵庫公演】2018年12月11日(火)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

【スペシャルトークショー】
10月6日(土)14:00公演後 畑澤聖悟(劇作家)
10月13日(土)14:00公演後 青来有一(小説家)「“祈り”のナガサキ ~信仰と原爆~」
10月17日(水)14:00公演後 富田靖子、松下洸平

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