連載

『CHESS』プチ・ヒストリー&ストーリー

2013年12月12日初日の『CHESS in Concert』セカンドバージョン。まだ日本では本格的に上演されていないので、意外にその歴史やストーリーを知らない人もおおいのでは? そんな方のために、ミュージカル『CHESS』についての豆知識をご紹介します!!(文/小柳照久,写真は前回公演より。撮影/村尾昌美)

COLUMN 2013 12/14 UPDATE

 

『CHESS』プチ・ヒストリー

始まりはコンセプト・アルバムから

 アグネッタ、ビヨルン、ベニー、アンニ=フリッドのスウェーデン人四人グループABBA(メンバーの頭文字がグループ名となっている!)によるミュージカル。というと『マンマ・ミーア!』がすっかり有名だが、こちらは既存のヒット曲を使ったジュークボックス・ミュージカル。一方、『CHESS』は全曲書下ろしのオリジナルミュージカル。1970年代のミュージカルはロジャース&ハマースタインに代表されるようなクラシカルでゆったりした流れの作品がメインで、客層も年配者を中心。実はビヨルンとベニーの作曲家コンビにとっては興味のないジャンルだったそう。しかし、1980年に入ってミュージカル界に革命がおこる。アンドリュー・ロイド=ウェバーによる『ジーザス・クライスト=スーパースター』『エヴィータ』などロック・オペラの登場により、時代遅れとみなされていたミュージカルが一気に時代の先端となった。当時、ロイド=ウェバーと一緒に仕事をしていたのがティム・ライス。舞台の開幕前にコンセプト・アルバムを発表し、先にミュージカル・ナンバーをヒットさせてしまうという手法も斬新だった。

 ミュージカルに興味を持ち始めたビヨルンとベニー、ロイド=ウェバーとのコンビを解消したばかりのティム。三者の出会いは偶然にして必然。新作ミュージカル『CHESS』の制作に取り掛かることになる。ちなみに、デモ・テープの段階では、ABBAのアグネッタとフリーダも参加しているが、残念ながら未発売。幻の録音、いつの日か公開される日はくるのだろうか。

コンセプト・アルバムが大ヒット

 1984年にリリースされたコンセプト・アルバム『CHESS』はフローレンスに『エヴィータ』のタイトルロールや『CATS』のグリザベラのオリジナル・キャストにして英国ミュージカル界のファースト・レディと称されるエレイン・ペイジ、アナトリーにはスウェーデンのトップシンガーのトミー・コルベルグ、フレディには俳優にしてロックスターのマレー・ヘッド、スヴェトラーナに『ブラッド・ブラザーズ』のジョンストン夫人などで活躍するバーバラ・ディクソンという強力メンバーがキャスティング。ロンドン・シンフォニーがクラシックのシンフォニーを響かせれば、ABBAのミュージシャンたちがロックやフォークソングなどを力演するという力の入ったアルバムで、イギリスのヒットチャートで第10位にランク・イン。マレー・ヘッドによるシングルカット「One Night In Bangkok」は西ドイツ、スイス、オーストラリアで第1位、カナダとアメリカで第3位、イギリスで第12位を記録、エレイン・ペイジとバーバラ・ディクソンによる「I Know Him So Well」はイギリスで第1位に輝き「全英で最も売れた女性デュオによるシングル曲」としてギネスブックにも記録された。

 

ロンドン・ウェストエンドで世界初演

 鳴り物入りの大作として1986年、ロンドンきっての大舞台を持つプリンス・エドワード劇場にて『CHESS』が世界初演。舞台全面が黒と白のチェス盤に見立てられ、そのまま舞台全体がせり上がり回転する中、チェスの駒に扮したキャストたちが歌い踊るという大スペクタクル、またステージ周囲をテレビスクリーンで囲むというメカニックで緊張感ある演出で評判となり約3年のロングランとなった。

 とはいえ、実はこの演出は『コーラス・ライン』の演出・振付で著名なマイケル・ベネットによるコンセプト。しかし、開幕前にしてエイズに倒れてしまった彼の代役として起用されたのが『CATS』や『レ・ミゼラブル』などの独創的な演出で時代の寵児となっていたトレヴァー・ナン。

 

NY・ブロードウェイ公演はまさかの失敗

 ロンドン版は限られた時間の中、自分の持ち味とは違うコンセプト、馴染みのないスタッフたちとのクリエイティブ・チームということで、『CHESS』のブロードウェイ入りに際し、引き続き演出を担ったトレヴァー・ナンは大胆に作品にテコ入れをはかる。メカニカルな美術を芝居に集中できるオーソドックスなものに変更し、また、人件費や俳優組合などを考慮して、クラシック系のナンバーをばっさりカット。クラシック系のソ連、ロック系のアメリカという音楽面での対立が薄れてしまった。また、冷戦の当事国での上演ということもあり、台本もラブストーリーよりも冷戦を中心に改訂するなど、まったく違ったテイストの作品となってしまい、1988年、ブロードウェイのインペリアル劇場での公演は、フローレンスに『レ・ミゼラブル』でスターダムに上がったジュディ・クーン、アナトリーにはアメリカン・ポップスの王者デイヴィッド・キャロル、フレディには名優フィリップ・カズノフというスターを揃えるが、まさかの2か月でクローズ。トニー賞も『オペラ座の怪人』に各賞を総ざらいされてしまう(『CHESS』のノミネートはなし)。

 

チェス・マニアによる息の長い支持

 ミュージカルのメッカ、ブロードウェイでの失敗で灯が消えかけた『CHESS』だが、多彩な音楽ジャンルを融合させた魅力的な世界観と音楽性はチェス・マニアを生み出す。上演のたびに台本や音楽構成を見直し、1990年にはツアー・カンパニーによる米英での上演、オーストラリア版、1995年にはロサンゼルス版、2001年にはオランダ版、2002年にはスウェーデン版(ABBAの母国!)などが登場する。

 そして、2008年にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開催された『Chess in Concert』はティム・ライスも「決定版だ」と評した。フローレンスに『RENT』のモーリーンや『WICKED』のエルファバ(トニー賞主演女優賞受賞!)のオリジナル・キャストのイディナ・メンゼル、アナトリーにソルトレイク・オリンピックやワールドシリーズで全世界に歌声を披露したジョシュ・グローバン、そしてフレディには『RENT』のロジャーでトニー賞を受賞のアダム・パスカルなど現在考えられる最強のキャストが集結。改めて『CHESS』の素晴らしさで魅了した。このコンサートはDVD化もされている。

 

日本における『CHESS』

 「One Night In Bangkok」や「I Know Him So Well」が音楽番組などで紹介される他、1989年には宝塚歌劇花組のショー『ザ・ゲーム』の中の一景「その前夜」にて「Pity The Child」を大浦みずき、安寿ミラ、真矢みき、愛華みれ、真琴つばさ、姿月あさとら豪華メンバーが歌い踊り、1993年の雪組のショー『TAKE OFF』のフィナーレで一路真輝が「I Know Him So Well」を熱唱。それぞれ強い印象を残す。

 そして、いよいよ2012年日本ヴァージョンとして『CHESS IN CONCERT』が本邦初上演。演出・訳詞に荻田浩一、音楽監督に島健という最高のスタッフにより作り上げられた舞台は、冷戦よりもソ連人とアメリカとハンガリー人の三角関係にフォーカスをあてたもので、フローレンス:安蘭けい、アナトリー:石井一孝、フレディ:中川晃教らの熱唱で絶賛の嵐となる。コンサートとはいえ、シンプルな装置が組まれ、衣装を身に着けての歌や芝居魅力的だった。そして、今回、新キャストとしてマテ・カマラスらが加わった『CHESS』が登場する。前回よりも東西冷戦についてより掘り下げるとのこと。さらに進化したセカンド・バージョンに期待が高まる。

『CHESS』ストーリー

第一幕

時はアメリカとソ連が対立していた冷戦時代。チェスの世界選手権がイタリア・メラーノで開催される。現チャンピオンはアメリカ代表のフレディ。自信満々な態度で、恋人でハンガリー人のセコンド、フローレンスを連れ立ってやってくる。対戦相手はソ連代表のアナトリー。彼のセコンドのモロコフはKGBだ。冷戦の代替戦争だとしてマスコミや聴衆が「US(西) vs USSR(東)の戦いだ」と熱狂する中、チャンピオンとしてのプレッシャーに苦しむフレディ、国の威信を背負わされるプレッシャーと戦うアナトリー。フレディは試合前の記者会見でフローレンスの静止も振り切ってアナトリーを罵り、ブーイングを浴びてしまう。そんなフレディへのさらに追い打ちをかけようと、モロコフはアナトリーにフローレンスを誘惑するよう命じるのだった。ソ連に妻子を残してきたアナトリー、ハンガリー動乱でソ連軍に両親を失ったフローレンス。結ばれるはずのない二人だったが、葛藤の中、お互いの状況に共通のものを感じ、いつしか恋に落ちてしまう。やがて心理戦に参ってしまったフレディはついに試合を放棄、アナトリーが新チャンピオンとなる。共に生きることを決意したフローレンスとアナトリーは国を捨てて生きることを決意する。

 第二幕

 一年後の世界選手権はタイのバンコクで開催された。チャンピオンとして試合に挑むアナトリーの前にモロコフが姿を現す。彼はアナトリーの妻を同伴していた。さらに、フローレンスの父親がソ連で生きている事、アナトリーが試合に負けて妻と共にソ連に戻ればフローレンスの父親を解放すると持ち掛ける。そんな彼らの前に、テレビの解説者に転職したフレディが現れ、フローレンスに復縁を迫る。東西の狭間で強く生きるフローレンス、自由への願望に目覚めるアナトリー、自由奔放のように見えて暗い過去を持つ天才プレイヤーのフレディ。国家の対立を背景に、彼らが選ぶ人生は、どのような軌跡を描くのか…。

 

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