連載

第7回 ステージレビュー~石丸トート編

絶賛上演中のミュージカル「エリザベート」。今回は、舞台評論家の 藤本真由さんによる、ステージレビューをお届けします!(写真提供:東宝演劇部)

COLUMN 2012 5/25 UPDATE

今回の公演中に、東宝版プロダクション上演1000回を達成するミュージカル「エリザベート」。石丸幹二が二度目のトート役に挑んだ舞台を観た。

  春に上演された「ジキル&ハイド」でタイトルロールの難役に初挑戦、“人間・石丸幹二”をいまだかつてなく感じさせ、作品世界、ひいては人の心の奥底にひそむ善悪の闇に迫る好演を見せた石丸。そのミュージカル・スターとしての強みは、作曲家の表現意図を的確に表現できる確かな技術に支えられた歌唱力、姿形の美しさ、そして、確立された自分のキャラクターに役柄をあてはめて演じようとするのではなく、役柄を演じることを通して自らの人間性を見出し、舞台上で解き放とうとする、芸術表現に対するその柔軟な姿勢である。一人の人間の内より出でし善と悪とを、数小節ごとに歌い分け演じ分けなくてはならない「ジキル&ハイド」の難曲「対決」でも、瞬時の声の使い分けの妙が圧巻で、涼やかな美貌の持ち主だけに、全編通して悪の表現が一層の凄みをもって心迫り慄かせるものがあった。

そんな石丸の強みはトート役でも大いに発揮されることとなった。ヒロイン・エリザベートにとって、心に秘めたひそやかなる死の願望の象徴であるトート。エリザベートと対峙し、歌いかけるとき、ときに石丸のトートは、エリザベート自身が鏡に向かって自問自答しているようにも立ち現れ、エリザベートとトートの“対立”がますます激化する第二幕はとりわけ見応えがある。

そんな石丸トートを観ていて、これまで何度も観、親しんできたこの作品に改めて感じたこととは、人間一人一人に与えられし生の力と、その対としての死の力である。その力は、自身に向かえばエリザベートの如き自殺願望ともなる。翻って他者に向かえば、破滅的、破壊的な暴力衝動ともなり、その悲しき集合体として生じるのが闘争、戦争に他ならない。そして、己に与えられた生を全うするものでなければ、愛をもって死=トートを受け入れることはできず、また、愛によって死=トートに受け入れられることはない。ここに、「エリザベート」なる作品の深みが、フロイト説くところのタナトス論にも支えられるものであることが如実に示されたといえよう。コスチューム・プレイ独特の衣裳さばきや立ち居振る舞いに習熟度が増し、さらに舞台上で解き放たれることによって、今後の展開にも大いに期待を抱かせるトート像の造形だった。

ミュージカル『エリザベート』
2012年5月9日〜6月27日 帝国劇場
2012年7月5日〜26日 博多座
2012年8月3日〜26日 中日劇場
2012年9月1日〜28日 梅田芸術劇場 メインホール
脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ 
音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
演出・訳詞:小池修一郎
出演:春野寿美礼/瀬奈じゅん、山口祐一郎/石丸幹二/マテ・カマラス、髙嶋政宏、石川禅/岡田浩暉、寿ひずる/杜けあき、今井清隆、大野拓朗/平方元基/古川雄大ほか
問い合わせ:東宝テレザーブ:03-3201-7777
http://www.tohostage.com/elisabeth/

 

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