連載

第4回ゲスト『御笠ノ忠次のオレ哲学』第1週

タレントで、舞台・役者・声優・ミュージシャン・プロデューサーとしてマルチに活躍の川本:成(あさりど)さんがホストとなって、エンタメ業界のみなさまに聞く、「オレの哲学とは?」。

連載対談「川本成のオレ哲学」(略してオレ哲)。第4回目のゲストは、演出家・劇作家の御笠ノ忠次佐さんです。川本さん主宰『時速246億』の作・演出を手がけている御笠ノさん。いつもは「照れてはぐらかす」という御笠ノさんですが、今回は正面からガッツり語ってくださいます。第一回目は、「演出家」のあり方について、お話いただきます。(撮影/下坂敦俊、構成・文/中村恵美)

COLUMN 2012 4/16 UPDATE

川本:御笠ノくんと知り合って5年。もう5歳、歳とっちゃってるということなんですけど。

御笠ノ:あんまりその感覚、ないですよねえ。遊んでたらこの年月経ってました、みたいな。

川本:御笠ノくんは、初対面の時から、そういうこと言ってたねえ。

御笠ノ:ああ。

川本:俺は、実は御笠ノくんに、凄い成長させられてますよ。

御笠ノ:ほほ? マジですかそれは。

川本:今日の稽古場の、あの爆笑本読みもねえ。

御笠ノ:ああ、面白かったなぁ。本読みであんな笑っていいのかなって。

川本:俺はですね、お芝居に憧れていた感覚と思想って言うのが、ここ5年で、180度くらい変わった気もするんですけどね。

御笠ノ:おおお!(笑)

川本:御笠ノくんの影響ですよ。なんなんでしょうね。

御笠ノ:なんなんですかね。でも成さんがそういうことをおっしゃってくれる時、だいたい僕はこっぱずかしくなって、全然違う話に変えるっていう(笑)。

川本:(笑)。

御笠ノ:でも、今回はちゃんと話さないといけないなと。

川本:(笑)。御笠ノくんとは、遊び続けられるよね。お互いに馬鹿友達、馬鹿な幼馴染じみみたいな感じ。就職して別々の仕事についてるけど、馬鹿な幼馴染じみとは、いつあっても馬鹿できる感じ。もちろん、お互い成長しているんだろうが、変わらずに馬鹿でもあるっていう感じが、面白いなぁと年々思ってきてて。

御笠ノ:またその輪がひろがってますもんね。

川本:その感じもあって、気が楽になったかな。今までは、芝居をやるという事に対して、物凄い肩の力が入ってたところもあって。

御笠ノ:うんうん。

川本:それが、いい意味で馬鹿になってきてる感じがしててね。バカに。

御笠ノ:今日の本読みが、その典型だったと思うんですけど、台本上、別にそんなおもろいこと書いてないんです。

川本:うんうんうん。

御笠ノ:要はここ一週間、稽古場でなんもせずにずーっとただくっちゃっべってる。あれがあるから、皆が、ともすれば毛穴なんかも開いたような状態になってて、自分が持ってる面白い物を出せちゃう状態になってるわけですよね。ああ、ここ、遠慮要らないんだなとか。

川本:うんうん。

御笠ノ:たとえばキャストさんの中には、何で俺ここまでしゃべっちゃったんだろうって帰りの電車の中でちょっと反省するっていうようなことを言ってた人もいるくらいだから。

それぞれの持ってる能力っていうのを、出しやすい状態を作る

んですよね。だからその為に、僕はその雑談という言い方をしてますけど、その場を作ってるだけで。自分で、俺台本そんなおもろい事書いてないのに何でこんなに笑えるんだろうって思ったら、皆が結局持ってるおもろい物を出せる状態になってる。その状態を作るのがある種、重要なサイクルになるのかなと。

川本:ふんふん。

御笠ノ:面白かったっすよね。自分で書いた台本で、しかも一つも別に面白いこと書いてないんだけど、でも終始笑ってるじゃないですか。
でも、それはちゃんとお客さんに届くものだと思うから。

川本:プロセスがほんとに面白いよね。御笠ノくんの。それが結果的には自然なものですよって言うじゃん。

御笠ノ:うん。

川本:御笠ノくんからは「役作りする」とか「感情移入しろ」とかいう言葉は一回も聞いた事もないかもしれない。

御笠ノ:そうですね。

川本:これは面白いよね。

御笠ノ:僕は、役作りとか感情といったものは大事だと思っていますけど、僕がやっているやり方は、世間一般と相当ズレがあるのはなんとなくわかってるんですよ。でも多分、国際ルールで考えたら僕のやり方のほうが正しい。

川本:そうなんだよね。

御笠ノ:日本の演劇の作り方と欧米の演劇の作り方で、たぶん僕のほうが国際ルールにハマってるはずなんです。

川本:うんうん。

御笠ノ:ただ、言葉だけ借りてきて、「役作り」っていうことから皆入っちゃっうから。要はデニーロ・アプローチみたいなものを役作りと皆思っちゃうけど。役作りって、要は、今日も稽古場でやってたような「雑談」なんですよね。

川本:なるほど。自己解放するにしても、「自己解放しろ」って言われてやるのとは、結果的には、ちがってきちゃうよね。

御笠ノ:そこもまた僕、前提が違って。自己解放ってできてて当たり前ってところからスタートしてるんですよ。そこが出来てない人はやっちゃだめなんです。本当は。

川本:ほう。

御笠ノ:皆さん、「自己解放ってなんなの?」って思うじゃないですか。思うけれども、「自己解放しろ」って言ってる側が、自己解放を実はわかってない。

川本:ほうほう。

御笠ノ:自己解放の言葉の響きと、なんとなく、これが自己解放だと思って、パーンとやらしてる。でも、あれは決して、自己解放じゃない。

川本:なるほど。

御笠ノ

あれは自己解放じゃなくて、洗脳です。

川本:枠にハメちゃうってことなのかなぁ。 

御笠ノ:人って、圧迫を与えれば多少は変わるんですけど、圧迫をされたことによって変わったってしょうがないんですよね。自分でそれを勝手に出来ないといけないんで。やっぱり前提が違うんです。

川本:前提がちがうんだ。

御笠ノ:日本の場合は、役者がもっと感情解放をするべきだといってやらせてるけど、それはスクールレベルの話。ちゃんとしたプロフェッショナルの現場でもそういう事言われるんだけど、お金を取って板の上に上がる段階で、それが出来てなきゃおかしいんです。そういう前提で僕はやっていて。だから、今回のカンパニーもそうだけど、実はそれが出来てるんです。日本の場合は演劇に対しての系統立てた学問が無いから、役作りって何だろう、感情解放って何だろうってとかなるんですけど。

川本:うんうん。

御笠ノ:いや、それは、みんなできてんじゃんっと。

川本:演出家さんによって言い方が違うとか、やり方が違うとかってなるでしょ。

御笠ノ:はい。

川本:広場があってさ、はい、一緒に遊ぼうって感じだから。どんな人が来ても御笠ノくんは別に無理はさせないし、この人とどうやって遊ぼうか、って感じがするんだけど。

御笠ノ:日本の場合だと、演出家って言うもののとらえ方が、違ってて。たとえば、音楽で言うと、俺がやりたいのはパンクロックなんだよ、だからお前らパンクの様式でやってくれってことになってるでしょ。僕、何で音楽に例えたかって言うと、そのまま演劇で話すと、人の悪口になるからなんですけど(笑)。

川本:(笑)。そのまま話しなよ。

御笠ノ:自分の様式を再現する。要は

様式の事を演出だと思っている人が多い

じゃないですか。

川本:うん。

御笠ノ:でも、様式は様式なんです。たとえば、○○さんが○○という様式を作ったり、さらにいえば△△さんにもやっぱり様式がある。でもそれは様式の話であって、それは演出家の仕事の一部分でしかないんですよね。演出って、要は、良いお芝居をするにどうするかっていうことをまず考える。自分の世界観を再現するっていうアーティスティックな演出家さんもいますけど、僕は別にそんなことは興味は無くて。まぁ、そのうちやりたいとは思うのかもしれないですけど(笑)。

川本:(笑)。

御笠ノ:たとえば、△△さんの所で育った俳優さんと、ミュージカルしかやったことのない人と、お笑い芸人の人たちっていう、全部のジャンルの違う人たちが集まった時に成立する、

そこでしかできない表現を作るのが、本来演出家の仕事

なんだと思うんです。皆が融合しあったら、いろんな楽器を引いてるけれども、一曲の音楽になってる。

川本:うんうん。

御笠ノ:ギター三本あるけど、ちゃんとそれが音楽になってる。そういうのを考えなくちゃいけないのが、本来演出家なんですよ。

川本:それはつまり、お客さんが好きだってこととか、お客さんに見てもらう物だからってことだよね。

御笠ノ:うん。そうですね。

川本:自分のモノを再現、自分の思想を再現したいばっかりってことよりも、お客さんに観てもらうことが大事?

御笠ノ:そう、大事なんですよ。自分の形を再現したいということに、最終的には僕も、そこに一個のテコ入れはしますけどね。

川本:うんうん。

御笠ノ:演出家で、前提として無い人に求める人っているじゃないですか。その人にはそもそもその才能がない。たとえば、音痴の人に、1カ月2カ月の稽古でミュージカルの主役をやらせるって、そもそも考えられない事なんですけど、でも、世の中の演出さんは、結構をそれやるんです。要は、できない子に対して、お前、もっとこうやってやるんだよって言うのは、演出じゃないんです。それは演技指導なんです。ある意味、僕のほうが厳しくて、出来ない人には求めない。

川本:確かに、そう考えると厳しいかもね。

御笠ノ:ただ、本人ができないと思い込んでる場合のほうが多くて、じゃあ、できないと思いこんでる物をどうやって引っ張り出してくるかっていうのが、演出家の仕事だと思ってる。実は面白い物持ってるんだけど自分で気付いてないよなって思ったら、いろんな方法論をつかって、雑談もそうですけど、

引き出すのが本来の演出家

の仕事。

川本:「がんばれベアーズ」的だよね。

御笠ノ:そうですか? あーー、うーーん。そうかもしれない(笑)。

川本:個性を生かして、目的は野球の試合をして勝つ(笑)。

御笠ノ:今って、何でもできる人を尊ぶ傾向にあるじゃないですか、

川本:ああ、そうだね。

御笠ノ:マルチな人っていう。でも、僕は、

マルチって嘘だ

と思ってて。それは、なにもないのと一緒。その人ならではのものをいかせば、それがいいと思う。たとえば、今日初日が開く舞台があるんですけど、その舞台に出演している役者さんで、キックボクシングやっててパンチドランカーな役者さんがいるんです。カーロス・リベラみたいな感じの。

川本:『あしたのジョー』ね!

御笠ノ:そういうときは、マンマいかしますよね。その人の感じ。

川本:なるほど。

御笠ノ:それが、ちゃんとお客さんに面白くなるように活かすのが当り前。台詞をちゃんと言えない人に、たとえばハムレットの長台詞みたいなのをやらせて、おまえ何で言えないんだよって怒るのは馬鹿じゃないですか。でも、ちょっと視点をずらしてあげたら、そういう人がハムレットの長台詞を言った事によって、お客さんが面白がってくれる。そういうやり方を探すのが、演出家なんです。
(2週へつづく)

 

 

ゲスト・プロフィール 御笠ノ忠次(みかさの・ちゅうじ)
劇作家、演出家。1980年7月24日生まれ千葉県出身。高校卒業後、劇団1980に二年間所属。同劇団退団後、「SpaceNoid」の作・演出家として本格的な活動を開始。2006年9月に上演した『スタンレーの魔女』が話題を呼び、翌2007年5月赤坂RED/THEATER杮落としシ(リーズvol.1『絢爛とか爛漫とか』(作:飯島早苗)を演出。2010年より、SpaceNoidの活動を休止し、プロデュースユニット案山子堂を始動。時速246億の作・演出も手がける。2012年1月に上演された「劇団スーパー・エキセントリック・シアター ブレーメンプロデュース 中島鉄砲火薬店」がグリーンフェスタ2012 BOXinBOX賞を受賞した。

ホスト・プロフィール 川本成(かわもと・なる)
欽ちゃん劇団1期生として在籍。1994年“あさりど”結成。主な出演番組としてTV『笑っていいとも!』9代目いいとも青年隊、『王様のブランチ』他、TV・ラジオ・舞台に多数出演。現在はTV『スタイルプラス』へのレギュラー出演や、アニメ『テニスの王子様』、『遊戯王デュエルモンスターズGX』他で声優として活躍の場を広げ、舞台では『小堺クンのおすましでSHOW』、『冒険者たち』他、また自ら『時速246億』を主宰し、定期的かつ精力的に舞台をプロデュースしている。 

★お知らせ★その1
川本成さん主宰、御笠ノ忠次さん作・演出の、時速246億公演のおしらせです!
時速246億vol.A「No.721」
公日程:2012年4月24日(火)~5月2日(水)
会場:新宿シアターモリエール
作・演出:御笠ノ忠次
出演:飯野雅彦・海老澤健次・郷本直也・清水宏・DAIZO・豊永利行(スーパーエキセントリックシアター)・藤原祐規・宮下雄也(RUN&GUN)※50音順/川本成
料金:前売¥4,500 当日¥4,700(全席指定・税込) 
チケット:e+・ローソンチケットにて発売中
      e+(イープラス)http: //eplus.jp/jisoku246oku/(PC・携帯)
ローソンチケットhttp://l-tike.com/jisoku246oku/(PC・携帯)
           0570-084-003(Lコード:30092) 0570-000-407(オペレーター対応)
ローソン店内Loppiで直接購入頂けます
時速246億ホームページ:http://www.jisoku246.com/
お問合せ:萩本企画 欽劇事務局 03-3795-5259

★お知らせ★その2
不二周助(CV:甲斐田ゆき)と河村隆(CV:川本成)のユニット「茄子」のCDが発売中!
「さよなら春の日」
発売日:2012年3月14日(水)
定価:¥1,000(税込)
メディア:マキシシングル
品番:NECM-10172
発売元:ティー ワイ エンタテインメント
販売本:キングレコード株式会社
(C)許斐剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト

★お知らせ★その3
河村隆(CV:川本成)4thシングルが発売中!
「あの場所まで-sloping road-」
発売日:2012年2月15日(水)
定価:¥1,000(税込)
メディア:マキシシングル
品番:NECM-10170
発売元:ティー ワイ エンタテインメント
販売本:キングレコード株式会社
(C)許斐剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト

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